はじめに/読者の課題提示

中小企業経営者にとって、景気変動による売上減少時に従業員を解雇せずに雇用を維持することは大きな課題です。雇用調整助成金は休業手当の一部を補助する制度ですが、単に休業するだけでは生産性が低下し、再開後の競争力に影響します。一方、教育訓練給付は従業員のスキルアップを支援する制度ですが、受講中も給与が発生するため、中小企業には負担が大きいと感じられがちです。

そこで注目したいのが、雇用調整助成金と教育訓練給付の組み合わせ活用です。休業期間中に教育訓練を実施することで、雇用調整助成金の加算(教育訓練加算)を受けながら、従業員の能力向上を図れます。さらに、教育訓練給付を併用すれば、訓練費用の負担も軽減できます。本記事では、両制度の基礎から具体的な組み合わせ方法、申請の流れ、採択率を上げるテクニックまで、実践的に解説します。

核心テーマの基礎知識・背景

雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を休業・出向・教育訓練させる場合に、休業手当等の一部を助成する制度です。2026年度現在、中小企業向けの助成率は最大4/5(大企業は2/3)で、1人1日あたりの上限額は約15,000円(※最新公募要領を要確認)。特に教育訓練を実施した場合、教育訓練加算として1人1日あたり最大2,400円が追加されます。

一方、教育訓練給付は、働く人の主体的な能力開発を支援する雇用保険の給付制度です。一般教育訓練(例:簿記検定、ITパスポート)では受講費用の20%(上限10万円)、専門実践教育訓練(例:Webデザイン、介護福祉士)では50%(年間上限40万円)が支給されます。この2つを組み合わせることで、休業中の従業員に実質無料または低コストで教育訓練を提供し、会社としても助成金を最大限活用できます。

具体的な5-7つのポイント/制度

  • ポイント1:教育訓練加算の仕組み – 雇用調整助成金の教育訓練加算は、休業ではなく教育訓練を実施した場合に、通常の休業手当に加えて1人1日あたり2,400円が加算されます。例えば、10人を10日間教育訓練すれば、加算額は24万円に。ただし、訓練計画書の提出と訓練の実施が条件です。
  • ポイント2:教育訓練給付の対象講座 – 教育訓練給付の対象となる講座は、厚生労働省の指定を受けたものに限られます。一般教育訓練では、簿記、TOEIC、MOSなどが代表的。専門実践教育訓練では、AIエンジニア養成講座や介護福祉士実務者研修など、より実践的なコースが対象です。会社が訓練費用を負担する場合、従業員が給付を受けることで実質負担が軽減されます。
  • ポイント3:組み合わせのメリット – 雇用調整助成金で休業手当の最大4/5を補助しつつ、教育訓練加算でさらに上乗せ。さらに教育訓練給付で訓練費用の20~50%が戻ってくるため、従業員のスキルアップを最小限のコストで実現できます。例:1人あたり訓練費用10万円の場合、教育訓練給付で2~5万円補助、雇用調整助成金で休業手当の補助と加算で約15万円の助成が可能(日数による)。
  • ポイント4:対象となる教育訓練の種類 – 雇用調整助成金の教育訓練加算の対象は、OFF-JT(職場外訓練)が基本。通信講座やeラーニングも認められる場合がありますが、事前に労働局へ確認が必要。教育訓練給付の対象講座は厚労省の指定講座一覧で検索できます。両方の要件を満たす訓練を選ぶことが重要です。
  • ポイント5:申請スケジュールの注意点 – 雇用調整助成金は休業等の開始前に計画届を提出する必要があります。教育訓練加算を受けるには、訓練計画を計画届に記載し、訓練実施後に実績報告を行います。教育訓練給付は訓練修了後に申請するため、タイムラグが生じますが、事前に従業員に周知しておくことでスムーズに進められます。
  • ポイント6:助成額の具体例 – 従業員20人の製造業が、売上減少により10人を10日間休業(教育訓練あり)。1人あたりの休業手当8,000円/日、訓練費用1人5万円(教育訓練給付対象)の場合:雇用調整助成金(休業手当の4/5)=6,400円×10日×10人=64万円、教育訓練加算=2,400円×10日×10人=24万円、教育訓練給付(一般訓練20%)=5万円×20%×10人=10万円。合計98万円の助成が受けられます。
  • ポイント7:注意すべき制約 – 雇用調整助成金の教育訓練加算は、訓練時間が休業時間の半分以上であること、訓練が雇用の安定に資するものであることなどの条件があります。また、教育訓練給付は従業員本人が受給権者となるため、会社が代理申請はできません。従業員への事前説明と同意が不可欠です。

実践的なステップ・申請の流れ

  1. ステップ1:要件確認 – 自社が雇用調整助成金の対象となるか(売上高の減少率など)を確認。同時に、教育訓練給付の対象講座を厚労省サイトで検索し、訓練内容を決めます。
  2. ステップ2:訓練計画の策定 – 訓練の目的、内容、期間、受講者を決定。雇用調整助成金の計画届に教育訓練加算の項目を記載するため、訓練時間やカリキュラムを明確にします。
  3. ステップ3:計画届の提出 – 休業等の開始日の前日までに、所轄の労働局またはハローワークに計画届を提出。教育訓練加算を希望する場合は、訓練計画書を添付します。
  4. ステップ4:教育訓練の実施 – 計画に沿って訓練を実施。出欠管理や訓練内容の記録を徹底し、後日の実績報告に備えます。従業員には教育訓練給付の申請方法を事前に説明しておきます。
  5. ステップ5:実績報告と助成金申請 – 訓練終了後、雇用調整助成金の実績報告書を提出。教育訓練加算の実績も併せて報告します。助成金は審査後に支給されます。
  6. ステップ6:教育訓練給付の申請 – 従業員が訓練修了後、ハローワークに教育訓練給付を申請。会社は訓練修了証明書を発行するなど協力します。給付金は従業員に直接支払われます。

採択率を上げるテクニック

テクニック1:訓練内容を事業計画とリンクさせる – 雇用調整助成金の審査では、訓練が雇用維持や事業再開に有効であることが重視されます。例えば、DX推進を計画しているなら、ITスキル研修を組み込むと説得力が増します。訓練計画書には、訓練後の具体的な業務活用方法を記載しましょう。

テクニック2:訓練時間を十分に確保する – 教育訓練加算は、1日あたりの訓練時間が休業時間の半分以上(通常4時間以上)必要です。短時間の研修では加算対象外となるため、半日以上のプログラムを組みます。また、連続した日程よりも、週2~3日×数週間の方が効果的と評価されやすいです。

テクニック3:外部の専門機関を活用する – 訓練内容の質を高めるため、教育訓練給付対象講座を提供する専門機関(職業訓練法人や民間教育機関)と連携しましょう。既に実績のある講座を選ぶことで、審査通過率が向上します。また、訓練計画書の作成支援をしてくれるコンサルタントもいます。

テクニック4:従業員の同意を得て書類を整える – 教育訓練給付は従業員個人の申請となるため、事前に制度説明と同意を得ておくことが重要です。従業員にとってはスキルアップの機会となるため、メリットを伝えれば協力的になります。同意書を取得し、計画届に添付すると審査がスムーズです。

テクニック5:過去の実績をアピール – 過去に雇用調整助成金を利用した実績がある場合、その成果(例:訓練後の離職率低下)を記載すると好印象です。初めての場合は、類似事例を参考に説得力のある計画を立てましょう。

よくある質問FAQ

Q1. 雇用調整助成金と教育訓練給付は同時に申請できますか?

はい、可能です。ただし、雇用調整助成金は会社が申請し、教育訓練給付は従業員個人が申請するため、手続きは別々に行います。訓練内容が両方の要件を満たしている必要があります。

Q2. 教育訓練加算の対象となる訓練は、どのようなものがありますか?

OFF-JT(職場外訓練)が対象で、例えばプログラミング講座、語学研修、マネジメント研修など。eラーニングも可能ですが、労働局への事前確認が必要です。教育訓練給付の対象講座と重なるものを選ぶと効率的です。

Q3. 従業員が教育訓練給付を受けるには、雇用保険の加入期間が必要ですか?

一般教育訓練は雇用保険の被保険者期間が1年以上、専門実践教育訓練は2年以上必要です。また、訓練開始日時点で被保険者であることが条件です。パート・アルバイトも週20時間以上働いていれば対象となります。

Q4. 訓練中に従業員に支払う賃金は、どのように決めればよいですか?

雇用調整助成金の休業手当は、平均賃金の6割以上を支払う必要があります。教育訓練加算を受ける場合も同様です。訓練時間が休業時間の半分以上の場合は、訓練時間分の賃金は通常通り支払い、残りの休業時間分に休業手当を適用する方法が一般的です。

Q5. 申請書類の作成が難しいのですが、代行してもらえますか?

社会保険労務士(社労士)に依頼できます。特に雇用調整助成金は書類が複雑なため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。当サイトの補助金一覧から関連情報を確認し、相談窓口も活用してください。

2026年最新動向・注意点

2026年度の雇用調整助成金は、コロナ禍後の経済回復に伴い、申請要件が厳格化される傾向にあります。売上高減少率の要件(前年同月比10%以上など)は維持されていますが、教育訓練加算の対象訓練がより実践的な内容に限定される可能性があります。また、教育訓練給付は2025年から専門実践教育訓練の給付率が一部引き上げられており、2026年も同水準が継続見込みです。

注意点として、両制度とも不正受給に対する監視が強化されています。訓練の実態がない虚偽申請は厳しく処罰されるため、必ず計画通りに訓練を実施し、記録を保管しましょう。また、助成金の支給には審査期間が2~3ヶ月かかるため、資金繰りに余裕を持って計画することが重要です。最新の公募要領は必ず厚生労働省の公式サイトで確認してください。

まとめ・次のアクション

雇用調整助成金と教育訓練給付の組み合わせは、中小企業にとってコストを抑えながら従業員のスキルアップを図る絶好の機会です。本記事で紹介したポイントを参考に、まずは自社の状況をチェックし、訓練計画を立ててみましょう。申請に不安があれば、補助金診断で自社に最適な制度を確認することをおすすめします。また、ブログでは他の補助金活用事例も紹介していますので、ぜひご覧ください。従業員と共に成長するチャンスを、制度を賢く使って掴みましょう。